今日レッスンに来ていただいた生徒さんが今取り組んでいる曲が非常にやっかいだ。
MALTAの演奏する「青い影」を私が耳コピで採譜した譜面なのだがとにかくめちゃくちゃ難しい。超絶速いフレーズのオンパレードだ。
正直言って私も「これを完コピでライブでやれ」と言われたらお断りしたい。それくらい難しい。
しかしそれに今取り組んでいる生徒さん(女性)は「絶対に完コピでやりたい!!」ととにかく一生懸命に取り組んでいる。
そんな彼女の熱意に応えるべく「速いパッセージを練習する王道の練習法」をまとめてみた。
これを読んでいる方で「そんな方法があったのか」という風に思ってくれると幸いであるし、「こういう方法もある」というのがあればぜひ教えて欲しい。
1.その譜面を「ドレミ・・・」で口に出して読む
上の譜面が今彼女が取り組んでいる譜面の抜粋だ。この手のフレーズが延々と曲の半分程を占めている。
見るだけでウンザリするような譜面だがそうも言っていられない。なんとかしなくてはならない。
まず1つめのステップとしては譜面を階名で読めているかだ。
音楽経験が長い方には「そんなの当然だろ」と思うような内容だが実際問題、経験の浅い奏者は自分が思っているよりも譜面が読めていないことに自らが気づいていない。
意外と譜面を口に出して読んでみろというとスムーズに読めていないことのほうが大半だ。
まずは口に出して譜面を読んでみる。ドレミが読みやすければドレミで良いし、ハニホが良ければそれでよし、英語が母国語の方はCDEで良い。とにかく譜面の情報を脳が適切に処理をしているかどうかを一度確認しよう。
2015.05.09 追記
実際はこの曲はアルトサックスではEmajorなのだが、このフレーズ単体で見たときはAmajorで 話を進めた方がわかりやすいためここではAmajorで記譜をしている。
2.歌いながら指を動かす。
譜面通り間違えずに歌うことが出来ていればようやく楽器を持つことになる。ただしまだ吹かない。
次のステップは歌いながら指だけで動かすことが出来るかだ。
楽器に息を入れて音を鳴らしながらの練習は最終的にはもちろん大事だが、音が鳴ってしまうと指以外のことに気を取られすぎてしまう。
- 音が思うように鳴らない
- 息が苦しくて集中力が欠ける
- スラーが下手で跳躍部分で音が途切れてしまう
etc.
そんなことにまだ気を取られている段階ではない。
ここで注意したいのは純粋に指の動きだけだ。まずはそれに集中する。
ここで同時にやっておきたいのは指の動き方が適切かどうかを吟味することだ。
ダメな指の動きの例
この運指は今「ラ」の指の状態だが、このような状態でキーを押さえてはいないだろうか?
上げている指がキーから大きく離れ、押さえている指には力が入り過ぎている。これでは早く動かそうにも動きにムダが多い上に力みすぎていて指が速く動いてくれない。
良い指の動きの例
キーを押さえるときはこの画像のようにならなくてはならない。
押さえている指は軽く押さえ、離しているキーは必要以上にキーから離しすぎない。
1分1秒を争う(実際はもっと速い)フレーズを演奏しなくてはならないのだから無駄な動きをしている場合ではない。
指の動きを究極にスリム化しなくてはならない。
実際はこのような指の動き方にまで注目して練習するのは曲のフレーズの中で練習するべきではない。次のステップの練習で日頃から鍛錬しておくのが正解だ。
3.その曲の調性のスケールをスムーズに出来るようになる。
もう一度先ほどの譜例をご覧いただきたいのだが、この部分に限らずこの曲の俗に言う「連符」という部分にはほとんど臨時記号が使われていない。
つまりこの曲の速いフレーズはほぼAmajorのスケールがスムーズに出来ていれば練習不要なのだ。
逆に言えば、その曲の関係調のスケールがスムーズに吹けない状態で速いフレーズにチャレンジすることはその都度その都度そのフレーズに向き合わなくてはならなく非常に効率が悪い。
そのためこの曲を攻略するにあたって必要なのは以下のスケールを曲の中フレーズと同じ速さで演奏できることだ。
それでここで先ほどの指の動き方の問題になるが、指の動き方を日ごろからスケールを練習しながら気をつけなくてはならない。
曲の中でいきなり指の動きを省エネしようと思っても普段エネルギーの無駄遣いしまくっているといきなりはできない。ここで基礎力が試される。
4.ゆっくり半分以下のテンポで練習する。
ここまで来てようやく曲のフレーズの練習に入る。ここではとにかくゆっくり練習する。
この曲であれば♪=72以下のテンポでもいい。
その練習で先ほどのステップ2で列挙した「指以外の気を取られてしまう」ものたちを解決する。
- 音が思うように鳴らない
- 息が苦しくて集中力が欠ける
- スラーが下手で跳躍部分で音が途切れてしまう
ゆっくり練習している段階でこれらのものたちに気を取られなくなるまで練習する。
もしかしたら練習の過程でロングトーンに近い練習になるかもしれないが、必要であればそれでも良い。結局のところ楽器が十分に鳴っていない状態では速いフレーズも吹けないのだ。
5.ある程度スムーズに速いテンポで吹けるようになったらリズムを変えて練習する。
ステップ4で記載したような点をまったく意識しなくても良くなったら徐々にテンポを速くして練習していく。
しかしその練習を繰り返して行くなかで練習しても練習してもこれ以上速く出来ないというテンポに到達するであろう。
そうなったらまた一度テンポを落として、また最初のステップから抜け落ちている部分がないかを洗い出して行くのだがその時にリズムを変えて練習することも試してみてほしい。
例えばこの譜例のような付点のリズムで練習するのは良い練習方法だ。
こうすることで自分が気づかないうちに転んだリズムで練習していた箇所に気づくことが出来る。
特にこのような逆付点のパターンは難しいが有効な手段だ。
頭をかなり使わなくてはこのリズムでは吹くことが出来ないため単調な練習に飽きてしまうことを防ぐことが出来る。
またフレーズに速い部分とゆっくりな部分が出来るため技術的な練習にもなる。
付点のリズムでの練習が出来るようになったらこのようなパターンで練習しても良い。
これも頭に3連が来る逆のパターンでも練習する。
リズムを変えて練習することで、単調な練習に一種の刺激を与えることができる。また均一の長さだったフレーズを速く練習する部分とゆっくり練習する部分に変化させて練習することが出来るので苦手な2音間の連結に気づくこともできる。
ある程度吹けるようになってからこの練習にはトライしてほしい。
6.練習に熱中するあまり姿勢が乱れていないか。
非常にありがちなことではあるのだが、譜面と練習に熱中するあまり猫背気味になってはいないだろうか?
猫背という状態は要は肩甲骨が上に上がっていたり横に広がっている状態なのだが、この状態で指を速く動かすのは不可能に近い。最悪の場合、腱鞘炎になる可能性すらある。
練習をしているときは出来る限り良い姿勢で集中して行おう(何をもって良い姿勢とするかは非常に長くなるのでここでは述べない)。
もしかしたら使用しているストラップによっては良い姿勢が取りにくいのかもしれない。
楽器に純正で付属しているストラップは大概あまり良くないものなので、自分の体の事を大事に思うのであればなるべく体の負担にならないストラップに変えよう。
今は人間工学に基づいた体への負担を軽減するストラップが何種類か出ている(ブレステイキングストラップやバードストラップなど)。
その中からお店でぜひ試着をさせてもらって自分の体に合うものを選ぼう。ストラップが合わないがために長時間に及ぶ練習が無駄になるのでは悲しすぎる。
以上が速いパッセージを練習する6つのステップだが改めて列挙する。
1.その譜面を「ドレミ・・・」で口に出して読む
2.歌いながら指を動かす。
3.その曲の調性のスケールをスムーズに出来るようになる。
4.ゆっくり半分以下のテンポで練習する。
5.ある程度スムーズに速いテンポで吹けるようになったらリズムを変えて練習する。
6.姿勢に注意して練習を行う
これでほぼ私の知識の中では出尽くした感はあるが、何か他にも「こんな練習のアイデアがある」というのがあればこのブログのコメント欄で教えて欲しい。
今後の私のレッスンの際に取り上げるであろうし、この記事にも追記させていただくかもしれない。
この記事の執筆者
長内阿由多講師 (金曜日担当・他曜日応相談)
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